10月29日「首切り浅右衛門人情控」 千野隆司 200810月発行 ★★★戻る】 

 罪人の首切り役の他にも、死体を使っての刀剣の試し切りをして主な仕事にしている。聞いただけでも暗い雰囲気にさせられる。その上に、妻が重い病に伏せ、日に日に病状が悪化して行く。このような状況設定の中で語られる短編が8話、断罪を受ける人間の、最後の願いを叶えてやるという、それがせめてもの供養と本人は納得しているようだ。表題の人情控は納得でき、嘘ではないが、やはり暗すぎる 

10月23日「サクリファイス」 近藤史恵 20078月発行 ★★★★★ 

 いきなりショッキングな序章から始まる。しかし本文は、若者が青春を謳歌するスポーツ小説風な書き出しで、日本人にはあまり馴染みの無い、プロの自転車ロードレースの話だ。ヨーロッパではサッカーと人気を二分するほどのスポーツで、最大イベントの「ツール・ド・フランス」は3週間にわたり3千キロを走り続け、優勝者はその国の英雄と称えられるそうだ。日本におけるロードレースの現状やその仕組みを説明しながら、物語は進んで行く。「ツール・ジャポン」決勝レース中に、チームのエースが死亡した。その裏には仕掛けられたドーピングの罠があった。最後の最後に大どんでん返しが待っていた。やはり、近藤史恵は並みの作家ではない。 

10月14日「恨み半蔵・御隠居忍法6」高橋義夫 20089月発行 ★★★ 

家督を子に譲り、奥州の笹野に住み着いた伊賀者の子孫で元お庭番・鹿間狸斎。若い側室に産ませた女児、親子三人静かに余生を送ろうという願いとは裏腹に、狸斎の元には今日も様々な難事件が。芥川賞作家・高橋義夫による御隠居忍法シリーズは、舞台が奥州(秋田県、山形県)なのだ。歴史小説ならばともかく、エンタメ時代小説といえば圧倒的に江戸、上方、長崎を舞台にした物が多いなかで、異色と言える。もしかして作者が東北出身かと思ったが千葉、船橋生まれだそうだ。 

10月10日「七瀬ふたたび」 筒井康隆 197812月発行 ★★★ 

 NHKテレビドラマ「七瀬ふたたび」の予告編を見て、昔、筒井康隆の小説に凝って何冊か読んだことを思い出し、多摩川図書館に予約を入れて置いた。他人の声を聞くことの出来る精神感応力の持ち主・七瀬の物語。「家族八景」の続編として書かれたものだが、やはり昨夜観た第1回放映を観たかぎりでは原作とドラマは大違い。NHKでもこの程度で、民放ではもっと惨憺だ。今までも原作を上回るテレビドラマは見たことが無い。小説好きの自分だけのこだわりだろうか。

10月9日「誘拐」 五十嵐貴久 20087月発行 ★★★★

 いきなり一家心中や、女子中学生のマンションからの飛び降り自殺と、ショッキングな書き出しで始まる。バブル崩壊のあおりをくらい、経営不振に陥った会社のリストラに係わった主人公の運命が一転する。勤めていた旅行代理店、観光会社が、経営不振に至るまでの経緯が何ページか語られるが、ここを我慢してのり越えれば、後は一気読みになる。韓国大統領の来日、友好条約の締結を間近に控えた、わが国の総理大臣の孫娘が誘拐された。しかし、この誘拐は次の展開への布石であった。読み応え十分。

10月7日「催火雨・深川日向ごよみ2」 六道慧 20078月発行 ★★★★

 催火雨とは菜の花が咲くのを促すように降る雨だそうだ。最終ページの後ろから5行目に始めて出てくる。今まで温めてきた言葉をここに使いたかったのだろう。ちなみに催火雨と小説の筋とは関係ない。伏線という言い方もあるが、ゆるりゆるりと回り道をしながら、幕切れをドラマチックに盛り上げていくこれが作者・六道慧の作風なのだろう。二つの事件を同時進行させ、最後に一本の線に繋がる。これがサスペンスの定番だと思っていたら、一本取られてしまった。それぞれにしっかりとクライマックスが用意されていたのだ。第1巻よりランクアップ。

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